しっかりとボールを保持し、戦うサッカーの難しさ

私が尊敬する指導者である風間八広さん率いる川崎フロンターレ。シーズン終盤となりトップも見えてきた状況の中、引き分け、さらに連敗して順位も落としてしまい、最終的には6位でシーズンを終えました。

レベルは大きく異なりますが、私なりに風間さんのサッカーに対する考え方、技術というものを理解。自分たちがしっかりと主導権を握り、ボールと人を動かすサッカーを目指し、日々の指導に当たっています。そうした中で多々直面するのが、相手のプレッシャーを強く受けてしまい、自分の、そしてチームの持っている力を発揮することができなくなってしまう場面です。

小学生年代でもそうですが、それはさらに中学、高校とフィジカルコンタクトの強度が上がっていけば行くほど、顕著になります。

そんなときに私は「自分の技術は自分を裏切らない。支えてくれるのは自分の技術。日々の練習から、自分を裏切らない、自分の確かな支えになってくれる技術を身に付けよう」とアドバイス。「前向きなミスをしてみよう」「チャレンジしてみよう」と選手に声をかけますが、なかなか選手は本来の力を発揮できる状況になってくれません。

川崎フロンターレがシーズン終盤を迎え、タイトル獲得のプレッシャー、J1降格から抜け出そうと必死で戦ってくる相手の圧力に耐えられず、本来のサッカーができない状況を見ると、やはりプロでもこのサッカーをやり続けるのは難しいのかと正直、やりきれない気持ちでいました。

そんなタイミングで手に取った『フットボール批評 2014-02』の中に風間さんの連載を発見。その中に、この状況を打開する力強いキーワードがありました。

このインタビューの中で風間さんは、「このサッカーをやるには『自信』と『好奇心』、『積極性』がないとだめ」と言っています。そしてさらに「楽しむことができていない、ということはずっと言っていた。それが選手に伝わっていないということは、監督の伝え方の問題かもしれない。今、自分が考えていることはそういうこと」と続けています(P46~47中)。

「楽しむ」。この言葉は、様々な場面で使われることですが、時として忘れがちです。

そもそもなぜ人々は、たくさんあるスポーツの中から「サッカー」を選び、トレーニングを重ね、試合に参加しているのか? それはそれぞれが自ら「やりたい」と望み、サッカーをすることが『楽しい』からではないでしょうか。

ですが、サッカーは本当に難しいスポーツです。周囲を見ようにも、目から遠い場所にある「足」というものを使ってプレーしなければならず、しかもこの「足」というものは普段細かい動きをさせていないので、なかなか細かい動きをしてくれません。

相手の強いプレッシャーを受けてしまうと、ボールを失いたくないから頭を下げてしまいその結果、周りはまったく見えない状態になってしまいます。

さらに中学、高校と年代が上がれば上がるほど、前述したようにフィジカルコンタクトは強くなります。そうした厳しさの中、どうやって選手たちに自信を持っていつも通りの技術を発揮させればいいのか。

これは私にとって、本当に難しい問題でした。

ですがこの風間さんのインタビューを読んで、単純明快な答えを教えてもらいました。

コーチである私が、試合に臨む選手たちに『楽しむ』ということを常に感じさせればいいのです。

相手選手がたくさんいて狭いなら、ボールをできるだけ早く動かせばいい。ボールを早く動かすには、ボールが来る前にいい準備をしておかなければならない。いい準備とは、周りを見て、相手選手がどこにいるか、味方の選手はどこにいるのか確認しておくこと。自分がやりたいプレーではなく、相手選手が教えてくれたプレーを選択しよう。

練習でやってきたこと、楽しさを感じてきたことを、試合でしっかりやってみよう。

できたらきっと楽しいんじゃない?

相手が早くプレスをかけてくるなら、その力を利用して外せばいいじゃない。そのためにどうすればいいか、練習してきたよね。それをやってみようよ。

失敗したら、その理由を考えて、修正すればいい。

それが、みんながなりたいと考える上手な選手なんじゃない?

これを継続して言い続けることが、きっと大事なのだと思います。

小学生女子チームの練習試合に帯同した際、試合の前に一人一人、その日の試合に対して自分なりの課題を挙げてもらいました。さらに試合後、できたかできなかったか、振り返ってもらいました。できたこともあったし、できなかったこともあった。大切なのは、なんとなく試合に臨んで、勝った負けたの一喜一憂で終わりにしてしまうこと。大切なのは、次にどう成長していくのかということなので、そこは明確にしておく必要がありますし、選手自身、明確な目標を持った方が意識は高まります。

「それ、できたよね。すごいよ。じゃ、次はどうする?」
「うまくできなかったねー。じゃ、どうすれば次はうまくいくだろうか?」
一人一人の発言を聞き、そうサポートしてあげることで、選手たちの顔は笑顔でいっぱいになっていきます。

一人一人の選手の可能性を信じ、それぞれが確実に成長できるようサポートする。『楽しさ』を常に感じ、前向きにトライしていける環境作りが、指導者には求められます。

また一つ、風間さんに貴重なことを教えていただいたきました。