『キック』の練習方法

サッカーは足で行うスポーツです。

ですから『蹴る』という行為がプレーの中心となります。

ですがこの『蹴る』というプレーが、実は非常に難しいものです。基本的なプレーが難しいというのが、サッカーという球技を難しくし、そして面白さでもあると私は思います。

私はよく選手に「朝起きてからサッカーの練習に来るまで、「歩く」という行為以外に足を使うために意識した瞬間がある?」と尋ねます。

日常生活の中で、例えばインサイドキックをするときのようにつま先を横に開いたり、インステップキックをするときのようにつま先を下に向けて振るというような行動を取ることはまずありません。

サッカーとは、そうした不器用な足を細かく動かして行うスポーツです。

ですから、プロの選手でも練習の最初には必ず『キック』の練習を行い、足の感覚、精度を高めようと努力を続けるのです。

キックがなかなか上手にならないと悩むコーチも多いと思います。

そこで今回は、特に幼稚園生や小学生低学年のボールをうまく蹴ることができない選手のためのキックの練習方法を紹介したいと思います。

ボールを闇雲に蹴っても良いキックはできません。

しっかりとボールを蹴るためには、ボールに当てる『インパクト面』をしっかりと作る必要があります。

そしてその『インパクト面』をしっかりと作るためには『足のどの部分をボールにどう当てるのか』というイメージが必要となります。

そこで私が練習で採り入れている方法は、二人一組でボールを1個用意し、一人は座って蹴る足を軽く持ち上げ、上からボールを足の甲の部分に落とし、それを座って足を上げている選手はインステップに当てる、というものです。

最初に、インステップにボールを当てるとはどういう感覚なのか理解させるために、コーチが一人一人の足を持ち、ボールをインステップに当てて確認させるという作業が必要になります。

インステップを蹴ることのできない選手の多くが、この練習をするとつま先を返します。

つまり、インステップでボールをとらえようとした後、つま先を返して上に向けてしまいます。

この動きでは、インパクト面がしっかり固定できません。

蹴った後もつま先はできるだけ下を向いているよう、インステップにボールを当てることに意識を集中させます。

これは、コーチが選手の足を手で持ち、何度もボールを当ててインパクトの感覚、その感覚を得るためにはつま先を返さずにインパクト面を上に持ち上げることをコーチングします。

これができるようになったら、今度は二人の距離を3m程度離し、手で持ったボールをダイレクトでインステップキックし、向かい合った相手の胸めがけて山なりのボールを蹴るようにします。

浮いたボールは最もインステップで蹴りやすいですから、ここでも力を入れず、軽く当ててボールのインパクトの感覚を理解できるように繰り返します。

そして次は、地面の上のボールを蹴ってみます。

ですが、多くの指導者はここで、止まったボールや、横から前に転がしたボールを選手に蹴らせようとしますが、それはキック初心者には難しい蹴り方です。

インパクトの感覚を簡単に経験させるには、前から転がってきたボールを蹴り返すのがいちばんです。

ゴールの中からボールをゆっくり転がしてやり、選手はボールに近付いてキックします。

ここで重要なことは、キックの初心者には、インステップキックを強要しない、ということです。

インステップキックとインフロントキック、キックの難易度としてどちらが高いかと言えば、間違いなくインステップキックです。

つま先を下に向け、足の甲をボールにぶつけるというキックをするためには、地面とつま先の適切な距離感が必要で、これにはある程度練習時間が必要です。

対してインフロントキックは、インサイドのつま先部分を当てるようなイメージになるので字面を蹴る不安もなく、インパクト面も広いので比較的すぐに蹴ることができるようになります。

比較的すぐと言っても、インフロントでのロングキックなどはある程度の練習時間は必要となりますが、インフロントに当てるキック、というもの自体はそれほど時間がかからないはずです。

正しいキックはインステップ、というイメージを持つ指導者の方もいるかと思いますが、目的と手段を明確にしましょう。

正確で強いキックができるのであれば、インステップでもインフロントでも、そしてインサイドでも問題はないはずです。

正確にできるプレーを選手にはたくさん身に着けてほしい。

指導者としてそう考えるのは素晴らしいことだと思いますが、具体的にそれがインステップであろうとインフロントであろうと、強く正確なキックができれば問題はないはずです。

選手が必要と考え、望むのであればそのやり方を指導してあげればいいと思います。

ですが特にキックのビギナーで習得することをいちばんに考えているのであれば、インフロントキックを選手がしても、しっかりとインパクト面を作ることができ、コントロールもできるのであれば特にインステップキックをするように修正する必要はないと私は思います。

それよりも、強くて正確なキックを蹴ることができるようになった選手は大きな自信を持つようになります。

そちらの成長を評価してあげることが、次の飛躍、モチベーションになるとそのことを私はいつも心がけています。


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川上滋人