サッカーだけでなく、日常生活の中でもよく言われる『質』。質が高いとか低いとか、いろんな場面で使われる『質』について、今日は考えてみたいと思う。
私はサッカーコーチと並行して、スポーツライター、特にオートバイのレースを長く取材する仕事をしている。サッカーコーチとして底辺を支え、スポーツライターとしては、国内のトップレベルに日々、接している。
ご存知の方も多いと思うのが、バイク業界で日本のメーカーは世界のトップ4を占めており、それはレースの世界でも同じ。世界チャンピオンを獲るマシンを、日本の企業が造り出している。
そんな世界チャンピオンマシンを造り出すエンジニアにインタビューする機会もあるのだが、そうした中で出てくる言葉が『質』だ。
圧倒的速さで何度も世界チャンピオンを獲得したマシンを造り出しているエンジニアは私に、分かりやすい言葉で『質』について説明してくれたことがある。
「レーシングライダーがブレーキをかけようとスッと指をおいたところにレバーがある。力を入れようとした瞬間、ハンドルに力が入れられる。そういう状態が、バイクと人が一体になった人車一体状態。ブレーキレバーがここでとか、ハンドルがここで、なんていちいち意識しているようではとても一体になって走ることなんてできない。それが、多くの人の言う『質』なんだけど、じゃ、質ってなんだ?あるとき、私はずっとそれを考えていた。あなたは『質』って見たことありますか?」
「ありません」と私が答えると、そのエンジニアはこう続けた。
「そうです。『質』を見た人はだれもいない。でも、たくさんの人が『質』が高いとか、『質』が低いとか、見たこともないことについて言っている。つまりね、『質』って言うのは、一人一人の中にあるんですよ。日々の生活の中で、それぞれの人が自分の『質』の基準を決めている。そこで決められた物差しによって、様々な『質』を評価しているわけです。
例えば、待ち合わせに遅れるのはもってのほかですが、例えば5分前には到着しているとか、例えばミーティングがあるのならそのための準備をどれくらいしているか。あるいは、コピーをしてほしいと頼まれたとして、単に10枚セットになった資料をバラでコピーしたまま渡すのか、10枚1セットでしっかりとホチキス留めにして渡すのか、仕事の質がぜんぜん違いますよね」
つまりは、一人一人の意識の持ち方、生活態度でその人の『質』が決まる、ということだ。
今季から名古屋グランパスの監督に就任した風間八宏さんのサッカーは、そうした『質』にこだわったものだと私は認識している。次のプレーに対する身体の向き、それによって自ずと決まってくるボールの置き場所。そうした一つ一つのプレーの『質』を追究するから、風間監督の下でサッカーをする選手は、例えそれがプロのベテランであっても、さらに上手くなるわけだ。
そうした一つ一つのプレーの質を上げるには、本人の意識がもっとも大事だが、意識するようにコーチが日々指摘してあげるということも本当に大事だと思う。多くの育成年代のチームの練習を見る機会があるが、トラップ、キック、身体の向きといった細かいことをウォームからコーチングし続ける人は、残念ながらなかなか見ることがない。
質を上げるには、普段の生活から。ぜひ意識したいところだ。