ポゼッションサッカーをするためのトレーニングのロードマップ

サッカーの攻守における重要なポイントは『スペース』の理解だと思います。

ここでも書いたように、90年代からしばらくの間、サッカーは『スペースを消し合う』スポーツとなっていました。

現代サッカーは変わっている、というのがそのページで紹介した趣旨ですが、それを裏返せば、ディフェンスの基本はこの『スペースを消す』という作業になります。

そして攻撃に関しては、この『スペースを消す』という守備の基本的考えに対するアプローチとなるわけです。

こうして『スペース』というものをどう使うのか? という発想がベースになってサッカーの攻守は組み立てられるわけですから、基本的に『スペース』というものの理解がとても重要になってくるのです。

例えば、スペースというものを理解せずにサッカーをするとどうなるでしょう?

まず間違いなく、団子サッカーになります。

つまり、ボールに対して攻守ともに複数の選手が群がり、ドリブル合戦となるのです。

このことに関して例えば、バルセロナのメッシ選手は多くの選手が待ち構えるゴールの前にドリブルで突進して行くではないか。

そう言う方もいらっしゃると思います。

スペースは、選手のレベルによって変わってきます。

一般の人にとって狭いスペースに見えても、レベルの高い選手になると『外す』技術があるので、相手が近くにたくさんいようとも、その選手にとってそこにはスペースがあるのです。

ですが、スペースの理解、相手を外す技術がないのに相手選手がたくさんいる中にドリブルで突っかけていくのは無謀です。

そうしたプレーの先に、『何度も相手ゴールの近くまでボールを運び、たくさんシュートする』という目的があるとは思えません。

それを踏まえた上で、ドリブル突破のできる『個の技術』を身に着けさせようというトレーニングをすることは意義あることだと考えます。

ですが、それはかなり極端な練習テーマであり、クリエイティブな選手を育成しようとするならば、サッカーとはどういうスポーツで、そこでどういう判断が常に要求されるのか。そしてその判断力をどのように付けていくか、という部分に常にフォーカスし、トレーニングを続けていくことが大事だと私は考えます。

すべてがそうとは言いませんが、日本での多くのジュニアチームが、『個の打開』という部分に重きを置き、ドリブルでの突破を推奨し、極端なチームではそれのみという練習をしているところも見受けられます。

良い悪いはそれぞれの判断ですからそのことに関して私は触れませんし、それぞれの選手、親御さんが判断すればよいことですし、いろんなチームがあっていろんなサッカーが生まれるので、基本的に否定はしません。

この『スペース』の理解という部分にフォーカスしてチームでのトレーニングを組み立てようとした場合、私は

1)ボールを早く動かすメリットの理解

2)サポートしてボールポゼッションの理解

3)スペースを作り出すイメージの共有と理解

という流れになると考えています。

1)は、ドリブルとパスの判断力を養うという意味です。

サッカーは、点を多く取ったチームが勝ちます。試合に勝とうとすれば、点を取るためにはシュートをしなければ取れませんから、シュートをたくさん打てる位置、つまり相手のゴール近くまでボールを何度も運ばなければなりません。

そのためには、相手選手のいないところでボールを前に運べれば、確実に相手ゴール近くまで辿り着くことが可能となります。

ここでは『相手選手のいない場所=スペースがある』という理解になると思います。

相手がたくさんいる場所でボールを動かしても、すぐに相手選手に捕まってしまう。

相手選手にボールを取られにくくするためには、早くボールを動かせば相手選手はボール奪取のためのポイントを絞りにくくなります。

まずはこのことを選手に理解してもらいたいのです。

早くボールを動かすことが、相手選手にボールを取られにくくすることだということが理解できたら、次は『広いスペースでボールを運ぶ』という理解に移ります。

自分の所属するチームがボールを持って攻撃している場合、相手選手がディフェンスルする基本位置はここで説明したように、こちらの選手とゴールの間になります。

相手チームはシュートを打たれたくないので、必然的にゴールの前に横に並んで壁を作ります。

つまり、ボールと相手ゴールの間に選手がポジションを取って守備をするのですから、ボールを持っている選手の後ろ側にサポートしてあげれば、プレスはかかりにくくなるわけです。

ボールを持っている選手の後ろにサポートし、逆サイド、あるいは中央にボールがあるのならば相手選手の少ないサイドへ展開し、前に運べば効率よく、相手ゴール近くまでボールを持っていくことができます。

これを選手に理解させることで、良い攻撃である『ワイド』の意識を持たせることができ、またサポートする選手がボールホルダーから大きく後ろに下がってサポートすることで、良い攻撃である『深さ』も理解することができます。

ワイド、深さという攻撃での理解ができたら、次はスペースを自分たちで作り出すトレーニングに入ります。

つまり、広いスペースがなければ攻撃ができないというのでは、90年代から続いた守備側がイニシアチブを握ったサッカーになってしまうのわけで、それでは球技本来の『ボールを持った攻撃側が主導権を持ってプレーする』という面白さから外れていってしまうからですし、球技の本質から外れたものと言わざるを得なくなっていくからです。

スペースを作り出すことができれば、状況によってワイド&深さを持った攻撃で相手を崩すこともできるし、スペースがなくても自分たちで作り出すことができれば、相手が密集している中でも崩してシュートへ持っていくことができるようになるのです。

1)が基本的に理解できれば、繰り返し行う必要はないと思います。

ですが2)、3)に関しては、どちらもサッカーの攻撃における崩し方としては重要で、2)を理解して3)のトレーニングもレベルアップし、選手一人一人の技術も上がっていくと、また2)のトレーニングも次のレベルに入っていくことから、2)、3)を繰り返し行い、さらに個人の技術も上げていくことが、結果として楽しい、そして強いチームを作り出していくことになると思います。

これが、ポゼッションサッカーのトレーニングの基本的なロードマップになると私は考えます。

それぞれに関して今後も継続してトレーニングメニューを紹介していきますが、特に3)に関しては、風間八宏さんのDVDが最も参考になると私は思います。なにしろ、私の3)に関するトレーニングメニューは、この風間さんのDVDを参考にしているのですから。ぜひご覧になることをお勧めします。


川上滋人